第5章 ODS導入検討のプロセス

本章では、ユーザー事業者がデータスペース事業への参入可否を判断するための検討プロセスを整理する。 「①自社の課題・ユースケースの特定」「②参入パターンの選択」「③成立性の検証」「④参入の是非判断」の4ステップで進める。

5.1 ステップ1:自社の課題・ユースケースの特定

参入検討は「Open Dataspacesという技術対応」ではなく「自社の事業課題の解決」を起点とすることが重要である。

特に、データマネジメントの世界では「Garbage-in, Garbage-out」と呼ばれるように、目的なくデータを大量に集めても、ランニングコストが消費されるだけで、ROIは悪化する一方である。 このような 「データを集めれば何かいいことが起きるという幻想から決別し、課題解決という目的から逆算された必要なデータを収集することが、プロジェクト成功の鍵を握るだろう。

その際に設定すべき論点として、例えば、表7のような問いで課題を具体化していく必要がある。

表 7 自社の課題を特定する問い

問い(例)
着目点

そもそも、ビジネス・オペ―レーション上の何の課題を解決するために、データを連携するのか?

現在のビジネスモデルが直面する脅威と機会、個別組織・個社単位で個別最適化はされているが全社・サプライチェーン単位で見ると最適化されていないオペレーション、データサイロ

今、外部データとの連携において何が障害となっているか?

個別API連携の調整コスト、データ品質の不透明性、利用条件の整合困難

自社データを外部に提供できれば何が変わるか?

新規収益源、パートナーシップ強化、業界標準への準拠

AI活用・BI/DIに必要なのに使えていないデータは何か?

サプライチェーン上流データ、外部統計・市場データ、リアルタイム環境データ等

現在の個別連携で積み上がっているコスト・手間はいくらか?

「Save Money」の定量的な見積もり

5.2 ステップ2:参入パターンの選択(4軸で整理)

ユーザー事業者の参入戦略は以下の4軸の組み合わせとして整理することができる。これらの軸は独立したものではなく、組み合わせによって参入形態が具体化される。

(1)自社の参加役割

データ提供者・データ利用者・両方の組み合わせのいずれかを選択する。同じ機能でもどの役割で参入するかで、価値の言語化・責任境界が変わる。

(2)優先するペインへの対処:どの課題をOpen Dataspacesで解決するか

「Where to getの問題(DAD)」「What to meanの問題(OSI)」「Who and How to useの問題(IUC)」のどれが自社の最大のペインかを特定する。

(3)実装範囲:自社で担う機能の範囲

分散型(自社でプロトコルを実装・運用)か連邦型(マネージドサービスを利用)か。初期段階では連邦型が参入コストを下げやすい。

(4)責務範囲(SLA):どこまでを自社の責任として引き受けるか

データ提供の範囲・利用条件・SLAを自社で設計するか、マネージドサービスの枠内に収めるかを決定する。

5.3 ステップ3:成立性の検証

技術的な運用を確認するPoC(Proof of Concept)に加え、「ビジネスとして意味があるか」を検証するPoV(Proof of Value)が不可欠である。 成立性検証のためのステップを表8に示す。

表 8 成立性検証のためのステップ

検証の種類
確認内容
主なアウトプット

PoC 最小構成(MVP)でデータ連携が技術的に成立するか。

ODS SDKやマネージドサービスでPoC環境を構築し確認する

接続成立性レポート

PoV

コスト削減効果・価値創出効果によるROI。リードタイムの改善。外部データのAI活用上の有用性

価値仮説メモ、事業ケース

運用成立性

最小構成の運用負荷・体制要件を把握できるか

オペレーショナルフロー

5.4 ステップ4:参入の是非判断

以下の問いに自社なりの仮説と数値感を持てるかどうかが、本格参入に進むか否かの一つの目安となる。

  • 現在の個別連携コストに対して、Open Dataspaces参入後のコスト削減(Save Money)はどの程度見込めるか

  • 外部データ活用によって生まれる新たな収益・競争優位(Make Money)はどの程度か

  • 参入に必要な初期投資(人的リソース・技術投資・外部サービス利用費)は事業計画上許容できるか

  • 競合他社がデータスペース事業に参入した場合の競争上のリスクはあるか

次章では、参入を決断した後の導入企画プロセスを整理する。

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