第2章 AI時代の産業構造転換とデータマネジメントの戦略的価値
2.1 日本の産業構造:ハード中心の強みと変化の兆し
日本の産業は長らく、自動車、精密機械、家電などの製造業を中心に、品質・信頼性・量産技術といったハードウェアの強みを基盤として競争力を築いてきた。これらは現在においても日本経済を支える重要な要素である。
一方で、価値の形成構造は近年大きく変化している。製造時点の性能や品質だけでなく、運用段階での機能更新や外部サービスとの連携を通じて、継続的に価値が生み出される構造が一般化しつつある。こうした変化は自動車産業に限らず、多くの分野で観測されており、データやソフトウェアを活用した運用・サービスが価値競争の中心となりつつある。
2.2 世界的構造変化とプラットフォーム競争の現実
検索、OS、SNS、EC、クラウドといったデジタル領域では、利用者とデータの集積を基盤とするプラットフォーム型ビジネスが競争優位を確立してきた。利用者が増えるほどデータが蓄積され、そのデータを基にサービス改善が進み、さらに利用者が増えるというネットワーク効果が働くためである。
一方で、本書が対象とする産業データ連携の領域では、消費者向けプラットフォームとは異なる性質が支配的となる。企業間で扱われるデータは、契約条件、責任分界、機密性、規制対応といった前提を伴い、単一主体による集中的な管理や囲い込みが必ずしも合理的とはならない。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の調査*1によれば、このような産業データに係るアプリケーションおよびミドルウェアを中心とするデジタル関連市場は今後も拡大が見込まれており、2040年時点では国内で約30兆円規模、グローバルでは約200兆円規模に達すると予測されている。
2.3 「データはあるのに使えない」構造的問題とデータアクセス能力
AI活用を含む価値創出では、「どのデータを保有しているか」以上に、必要なデータへ適切な条件でアクセスできるか(データアクセス能力)が競争力を左右する。しかし多くの企業では外部データ活用が十分に進んでいない。背景は個社の努力不足ではなく、構造的な要因にある。データ連携が進まない構造的課題の詳細はDesign Philosophyに体系化されている。本書では、これらの課題が存在するという前提のもとで議論を進める。
次章では、Open Dataspacesが従来のデータマネジメント体系とどのように異なるのかを整理し、ユーザー事業者が理解すべき機能構造について確認していく。
脚注
*1 NEDO. (2025). データスペース市場規模調査及びインパクトモデリング・シナリオ分析 調査報告書. https://www.nedo.go.jp/content/800039315.pdf
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