1. はじめに
本章では、ODS-RAMの目的と位置づけ、想定読者、スコープを説明する。
1.1 本書の目的と位置づけ
「Open Data Spaces(ODS)」は、国や組織ごとの多様性を尊重する、オープンでスケーラブルな分散データマネジメントの技術コンセプトの名称である。 また、本書で利用する一般名称としての「Open Dataspaces」は、米国のデータスペース原著論文(Franklin et al., 2005; Halevy et al., 2006)及びデータメッシュ(Dehghani, 2019; Dehghani 2022)を中核として、民間企業・団体と連携した研究開発・商用水準での検証を経ながら設計された新世代の分散データマネジメント技術及びそれを構成する概念を指す。
本書は、Open Dataspaces技術の利用者に向けた、相互運用性を確保するための階層構造モデルをはじめとした技術的なパラダイムを示す「参照文書(リファレンスアーキテクチャモデル)」である。Open Dataspacesは、分散型アーキテクチャとして掲げる3つの柱を実現するため「(1)ベンダーロックインの回避」、「(2)制度的ロックインの回避」、「(3)プロダクトライクでサービス志向の設計」を根幹となる設計指針としている:
ベンダーロックインの回避:マルチクラウド、クラウドレスでの動作を前提とし、特定企業のサービス・商品に依存しないベンダーフリーな設計を採用する。
制度的ロックインの回避:特定法域の制度的・規制的要件を技術仕様から明示的に分離し、様々な制度・規制下でのローカライゼーションが可能となるように設計を行う。Open Dataspacesはグローバルで適応可能なアーキテクチャパラダイムと技術仕様を提供する。
プロダクトライクでサービス志向の設計:解くべき課題、そして、機能要求は常にマーケットにある。本質的なニーズは、法制度や規制、特定のベンダーのプロダクトやシステムにはない。ただし、マーケットを構成するユーザーが答えを教えてくれるわけではない。設計者は、マーケットが潜在的に求める革新から逆算しながら、アジャイルな検証を通じてProduct Market Fit(PMF)を目指していかなければならない。硬直的な技術仕様は陳腐化し、マーケットから拒絶される。Open Dataspacesは、Make Money, Save Moneyに資するか、という観点を非常に重視する。
本書は、「信頼性あるデータの自由な流通(Data Free Flow with Trust)」*1(以下、「DFFT」という。)の実現に向けた横断的な「相互運用性(Interoperability)」を担保し、分散データマネジメントにおける共通のリファレンスモデルとなることを目指すものである。
1.2 想定読者と期待するアクション
本書の主要読者は、国内外における幅広い産業を対象に、データマネジメントやAIに関わる技術の採用・導入、企画を検討する技術者を想定している:
Open Dataspaces技術の導入を担う企業のアーキテクト、技術責任者
Open Dataspaces技術を活用した分散データマネジメントサービスを実装しようとするソフトウェア企業、その技術部門のアーキテクト、技術責任者
Open Dataspaces技術に触れてみたい開発者、学術関係者、学生など なお、読者はデータマネジメントに関する技術・事業開発の基礎知識を有していることが望ましい。
また、本書は、企業・業界・国境を横断した分散データマネジメント技術の採用に関して、アーキテクチャを新規に設計又は既存のアーキテクチャの評価を実施する際のメタアーキテクチャとして参照されることを想定する。
1.3 適用範囲(スコープ)
本書は、分散データマネジメントのための技術的なアプローチを対象とし、リファレンスアーキテクチャモデルとして以下の項目を取り扱う:
In Scope:
アーキテクチャモデル
4つのレイヤと4つのパースペクティブで構成されるアーキテクチャ構造
プロトコル要件
各レイヤ・パースペクティブにおけるプロトコルの要件
Out of Scope: ODS-RAMは、すべてのデータマネジメントを包含するリファレンスアーキテクチャではなく、従って、すべてのプロジェクトが本書を参照する必要はない。また、本書は以下のようなテーマについても扱わない:
設計思想やアーキテクチャパラダイムの解説
アーキテクチャ設計時の基本原則や産業要件(コンテクストカタログ)
特定製品・特定ベンダーが提供するサービスに関する対応や実務
法制度に関する対応や、法務やガバナンスに関する実務
ドメイン・業界別のユースケースの要件や分析、戦略
技術仕様の解説やOSS(オープンソースソフトウェア)の導入手順、SDK(ソフトウェア開発キット)の利用方法
エコシステムやコミュニティ形成について
表1 参照先
Why Open Dataspaces: 設計思想とアーキテクチャパラダイム. (以下、「Design Philosophy」)
組織・企業・国境を横断した新たな分散データマネジメントの技術パラダイムであるODSの設計思想/アーキテクチャパラダイムの解説文書
ODS Protocols (以下、「ODP」)
ODS-RAMをもとに分散データマネジメントを実現する機能を提供し、Open Dataspacesの相互運用性を担保する一連の技術的な取り決め
ODS 事業者向け参入ガイドブック(開発事業者向け)
ソフトウェアやデータ関連サービスを提供する事業者が、データスペース事業への参入を検討する際に、参入の是非、自社が担い得る役割、初期投資の置き方を判断するための視点を整理
ODS 事業者向け参入ガイドブック(ユーザー事業者向け)
データマネジメントやAIサービスを利用または自社で実装する立場にある事業者の実務者・経営企画担当者が、データスペース事業への参入を検討する際に、参入の是非・自社が担い得る役割・初期投資の置き方を判断するための視点を整理
ODS 技術者向け導入ガイドブック
Open Dataspaces技術を採用・導入またはサービス提供する立場にある技術者を対象に、その技術的な全体像と基礎を理解し、設計・実装・運用に着手するための考え方と最小構成を整理
Whitepaper: ウラノス・エコシステム・データスペーシズ リファレンスアーキテクチャモデル
2025年2月に公開されたホワイトペーパーで、設計初期段階の問題定義や基本原則、設計時のインプットとなる産業要件(コンテクストカタログ)、コンポーネントの構成を提示
脚注 *1 2019年のスイス・ジュネーブで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で提唱され、2019年6月のG20大阪サミットにおいて各国首脳からの支持を得て首脳宣言に盛り込まれた。Digital Agency. Overview of DFFT. https://www.digital.go.jp/en/policies/dfft/dfft-overview
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