第2章 ODS-RAM、ODS Protocolsの把握
本章では、Open Dataspacesの参照アーキテクチャモデルである「ODS-RAM(Open Data Spaces Reference Architecture Model)」で示される指針を前提として、Open Dataspaces技術を実装する立場の読者が「何を実装すべきか」を整理する。
2.1 Open Dataspacesの設計思想
Open Dataspacesは、単にデータを共有・公開するための仕組みではなく、複数の企業・組織に分散するデータを「信頼を保ったまま」マネジメントできることを目的としている。 Open Dataspacesでは、特に以下A~Eの要素が重視される。設計思想の詳細は、Design Philosophyを参照されたい。
A. 分散データマネジメント(Distributed Data Management)
Open Dataspacesでは、データが特定の主体に集約的にマネジメントされることを前提としない。データは各企業・組織のドメインの管理下に留まり、必要な範囲・条件のもとProduct(商品)として提供される。特定の主体への集中管理は前提としない。(参照:Design Philosophy第3章、第4章)
B. セマンティクスとオントロジー(Semantics and Ontology)
Open Dataspacesでは、「データの構造・値(データモデル)」と「データの意味(情報モデル)」を明示的に分離し、ドメイン由来のコンテクスト(文脈)をオントロジーで制約することで、データ利用者の推論を可能にする。(参照:Design Philosophy第5章)
C. データの特定可能性と探索可能性(Data Addressability and Discoverability)
Open Dataspacesでは、データとオントロジーのエンドポイントをグローバルで識別可能、探索可能な形で設計・公開する。(参照:Design Philosophy第6章)
D. アイデンティティと利用制御(Identity and Usage Control)
Open Dataspacesでは、「誰がデータにアクセスできるか」「その相手を信頼できるか」「どの条件でデータを提供・利用できるか」「この取引が正しく行われたと言えるか」を設計対象とする。信頼・セキュリティ・権利義務関係の非対称性を明示的に扱う。(参照:Design Philosophy第7章)
E. 相互運用性(Interoperability)
Open Dataspacesでは、異なる企業・組織・法域を横断した接続を実現するため、依拠すべきプロトコルが「ODS Protocols(ODP)」として規定されている。特定ベンダ・製品・法制度体系に依存しない設計が原則。(参照:Design Philosophy 第3章)
2.2 ODS-RAMが想定するサービス体系
Open Dataspacesは、ドメインオーナー自身がSelf-Serve Data Platformを構築し、DPQMに基づくData/Ontology Productを提供するという方式である「分散型サービスモデル」と、DPQMを構成する基本的なソフトウェアスタックをDSSP(Dataspace Service Provider)である仲介者(Intermediary)に代理で提供してもらいながら、ドメインオーナーとして、Data/Ontology Productの提供に責任を持つ方式である「連邦型サービスモデル」の2つの実装パターンを想定する。
なお、連邦型サービスモデルにおいても、データ及びオントロジーはあくまでデータ提供者が責任を持ち、その利用制御を行うことを前提とする。
2.3 構成要素および機能概要
本節では、ODS-RAMを構成する要素を、ODPの整理に基づいて「ファンダメンタルプロトコル」「コンプリメンタリプロトコル」に分類し、それぞれが何を成立させるための機能かを概要として示す。
2.3.1 ファンダメンタルプロトコル(Fundamental Protocols)
ファンダメンタルプロトコルは、Open Dataspacesを実現するための主要な機能を提供するための取り決め。対応するレイヤ・パースペクティブの機能を実現するために採用しなければならないプロトコルであり、下記のものがある。
共通機能(Common Functionalities)
Versioning:仕様・設定・コンポーネントの変更を管理し、参加者間で同じ前提のもと相互運用性を維持するための機能
Logging:通信ログ、サービスログ、処理ログの3つのカテゴリに基づき、システムの通信状況、各サービスの処理結果、全体の監視・運用状況を包括的に記録・分析可能とする機能
Monitoring:システムのログから実行環境やサービスの稼働状況を把握し、システムの健全性やパフォーマンスを継続的に監視・管理する機能
Notifier:データトランザクションに関する更新・受領状況を、データ提供者と利用者間で共有するための情報通知機能
Usage Control:データ提供者が提供範囲・保存/利用条件・責任境界を自己決定できる状態を成立させるインターフェース機能(Usage Controlそのものの機能は含まない)
Data Trust Assessment:データの完全性/非改竄性の評価・算定を成立させるインターフェース機能(完全性/非改竄性の評価・算定そのものの機能は含まない)
Data Trustworthiness and Quality Assessment:データ品質/信頼性の評価・算定を成立させるインターフェース機能(品質/信頼性の評価・算定そのものの機能は含まない)
Transaction:エンドポイントとプロセス制御、データ転送を担い、各レイヤの結節点としてトランザクションを成立させる機能
Identity and Trust:参加主体を識別し、正当な主体同士、かつ正当なリソースへの権限でのみデータ交換が成立する信頼の前提を提供する機能
Metadata Exchange:データの所在や意味に関するメタデータを連携し、分散環境でのデータ発見性と意味判断を成立させる機能
Discovery and Search:メタデータをもとにした探索・検索の高度化機能
2.3.2 コンプリメンタリプロトコル(Complementary Protocols)
コンプリメンタリプロトコルは、Open Dataspacesを実現するための補完的な機能を提供するための取り決め。対応するレイヤ・パースペクティブの機能を実現するために、必要に応じて採用してもよいプロトコルであり、下記のものがある。
Heuristic Contracting:サードパーティの電子契約アプリケーションを通じて利用条件・契約条件の定義・合意形成を支援するインターフェース機能(契約そのものの機能は含まない)
Clearing and Payment:サードパーティの電子決済アプリケーションを通じてデータ取引の実績を記録・照合して精算・課金/決済するインターフェース機能(精算・課金/決済そのものの機能は含まない)
最終更新