第4章 ODS-RAMの構成とサービス参画構造

4.1 ODS-RAMにおける主体と関与形態

分散データマネジメントにおいては、ドメインオーナーであるデータ提供者に対して、どの機能・責務を補完的に担い得るかという観点でステークホルダーを整理することが重要である。 ODS-RAM では、相互運用性を、特定技術や製品ではなく「プロトコルの組み合わせ」として定義している。ファンダメンタルプロトコルは、すべてのOpen Dataspacesで共通に成立すべき最低限の枠組みを示し、コンプリメンタリプロトコルは、用途や成熟度に応じて採用される拡張領域を示す。 これを踏まえて、機能別に役割を整理すると、大まかには表3のように示すことができる。

表 3 ODSにおけるサービス主体種別

サービス分類(主体種別)
主な役割
説明

データスペースファンダメンタルサービス(Dataspace Fundamental Services)を提供する主体

サービス / テクニカル

セマンティクス・オントロジー、アイデンティティ・トラスト、トランザクションマネジメントなど、ODS-RAMに位置付けられた中核的な機能を、ソフトウェア又はサービスとして提供する主体。本書では、開発事業者が実装・提供し得る代表的な関与形態として扱う。

データスペースコンプリメンタリサービス(Dataspace Complementary Services)を提供する主体

サービス

ディスカバリー、契約、精算・決済など、Open Dataspacesの利用や拡張を補完する機能を提供する主体。本書では、中核的な機能を前提として付加価値を提供する関与形態として整理する。

インダストリーサービス(Industry Services)を提供する主体

サービス

Open Dataspacesを通じて取得したデータを活用し、特定の業界・業務領域におけるアプリケーションやサービスを提供する主体。本書では、Open Dataspaces技術を「手段」として活用する立場として扱う。

4.2 実装領域から見たサービス化の方向性

データスペース事業への参入を事業として成立させるためには、どの実装領域を担えるかだけでなく、それを継続的に提供できるサービスとしてどう切り出すかを明確にする必要がある。 Open Dataspacesでは、すべての機能を単一の事業者が提供する必要はない。

4.3 サービスモデルの整理

以下に、ODS-RAMにおける運用モデル(分散型・連邦型・ハイブリッド、表4)と2つのサービス提供形態を整理する:

表 4 ODS-RAMにおける運用モデル

運用モデル
概要
開発事業者の参入余地

分散型

データ提供者自身がプロトコルを実装・運用

自社運用のためのオンボーディング支援・ツール提供

連邦型

ソフトウェア事業者がマネージドサービスとして機能を提供

プロトコル実装のマネージドサービスが主な参入形態

ハイブリッド型

複数の事業者が役割を分担

特定機能に特化したサービスとして参入

4.3.1 プロトコル実装のマネージドサービス

ODS Protocolsで定められる技術要素(データディスカバリー、セマンティクス・オントロジー管理、アイデンティティ管理、アクセスおよび利用制御、トランザクションマネジメント、証跡管理等)をソフトウェアとして実装し、その運用をサービスとして担う形態である。

これらの機能は、大企業などであれば分散型サービスモデルとして、独自でのデプロイが可能であるが、中小企業など、独自に実装が難しい企業も多く存在する。 連邦型サービスモデルや、ハイブリッドサービスモデルの場合、これらの機能はマネージドサービスとして提供されることが想定され、開発事業者にとってはソフトウェアプロダクトとして事業化し得る領域となるだろう。

4.3.2 データを中心としたサービスのソフトウェア提供

近年のソフトウェア産業では、ソフトウェア機能そのものではなく、サービスの提供プロセスをソフトウェアとして実装し提供するモデルが注目されており、これを「Service as Software(SaS)」と呼ぶことがある。 SaSでは、ユーザーは単にアプリケーションを操作するのではなく、ソフトウェアを通じて提供されるサービス成果を利用する。従来は人手によって提供されていたサービス業務が、ソフトウェアや自動化技術によって提供される形態である。

Open Dataspacesの文脈では、この考え方は特にデータサービスにおいて重要となる。データの整備、意味付与、更新、利用条件管理などを継続的なサービスとして提供することにより、データそのものがサービス機能の一部として提供される。 例えば、

  • アナログ情報のデータモデル化及びパイプラインの構築

  • 業界ドメインデータへのコンテクスト付与(オントロジー設計)

  • データのAI-Ready化 などが挙げられる。 これらは、データ提供者自身が、データマネジメント自体に課題を抱えている場合は、Biz/Dev/Ops(事業、開発、運用)チームの組織的な分断により、投資対効果(ROI)に対して効果的なデータ整備が行えていない場合などに事業化し得る領域となるだろう。

4.3.3 事業継続性を支える経済的インセンティブ

データスペース事業への参入判断は、「新技術への対応」や「標準化への追随」だけでは成立しない。 事業会社・開発事業者が投資判断を行う上では、参入によって収益構造がどう変わるのか、そしてなぜ継続的な事業として成立し得るのか、つまり、「Make Money、Save Money」の基準が明確である必要がある。 その意味で、Open Dataspacesがもたらす本質的な変化は、個別連携(1対1)の積み上げでは到達できない N対N の接続構造が、一定の規律と相互運用性によって現実の選択肢になる点にある。 この構造変化は、開発事業者にとって 「受託中心」から「継続収益中心」への転換を成立させる土台となるだろう。

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